T287912(W2762)

脇指 銘 光世 附)朱塗刻海老鞘唐草文金具脇指拵

古刀 室町時代(応永~文明頃・1394-1486) 筑後
刃長34.5cm 反り0.4cm 元幅25.5mm 元厚6.0mm

保存刀剣鑑定書

附)朱塗刻海老鞘唐草文金具脇指拵

特別保存刀装具鑑定書

参考品

剣形:冠落し造、庵棟。身幅尋常に寸伸びて浅めの中間反りがつき、切先は鋭利。身幅に比して寸が伸びてスラリと均整のとれた姿をしている。腰元に腰樋を掻流し、茎には添樋の彫り物がある。(刀身拡大写真
鍛肌:板目肌に流れる肌合いを交えて柾がかり、総体に肌目がたち、地鉄は白けごころがある。
刃紋:大湾れに互の目乱れを交えて刃縁には小沸がよく付いて冴えて、匂口が明るい。湯走り状に打ちのけ、跳び焼きかかり、刃縁には金筋、砂流しが表出して闊達な働きがある。
帽子:表裏共に沸筋が掃きかけごころに小丸に返る。
茎:生ぶ。瓢箪形の目釘孔一個。筋違いの鑢目。茎尻は栗尻張る。佩表の棒樋、添樋留の下方に二字銘で『光世』とある。裏側のはばき元に鍛割跡がある。
 作者、光世は平安時代後期から室町時代にかけて筑後国三池(福岡県大牟田市)に続いた一派であるとされるが、その年代をきめることはむつかしいとされている。。
名物大典太、銘 光代作、昭和32年(1957)国宝指定は前田家伝来の名刀の中でも筆頭の太刀であり、前田家ではこの太刀を神格化して取り扱ってきた。作者は、平安時代後期、永保年間(1081-84)の刀工、光世の初代と伝え、初代の作とされる在銘の太刀はこの名物大典太だけである。茎から刀身の五分の一ほどまで鎬筋に添って『腰樋』と呼ばれる様式の樋を掻き、同時代の太刀と比べて非常に身幅が広く刀身が短い独特の体躯を持つ。
 大典太はもと室町幕府足利将軍家が相伝したひとつで、いつのころからか『天下五剣』のひとつに数えられた。十五代将軍足利義昭(1537-97)から豊臣秀吉(1536-98)に贈られ、その後は秀吉から利家に贈られたとも、豊臣秀吉が徳川家康に贈り、秀忠から前田利家に譲られたとの説もある。
『享保名物帳』も説によると、利家の娘で、豊臣政権の五大老の一人、宇喜多秀家(1573-1655)に嫁いだ四女、豪(秀吉の養女 1574-1634)が病になったとき、利家がこの太刀を秀吉から借りて豪の枕元におくと直ぐに病気が治り、返却したら再発したために借用と返却を三度繰り返して、三度目には秀吉が利家に与えたという。
 他説では枕元に置くと直ぐに病気が治るという話は共通するが、この太刀は秀吉から家康(1542-1616)に贈られ、二代将軍秀忠(1579-1632)と秀忠の娘婿である前田利常との間の出来事で、病人は秀忠の娘、珠(1599-1622)であったとする。大典太は霊験灼かなな刀として神格化され、前田家の歴代当主のみがそれを触れることができ、年に一度のみ手入れするだけで、しめ縄を張った専用蔵に安置したという。
 名物大典太には、『天下五剣』のひとつである御物、『鬼丸(銘 國綱)』様式の革包太刀拵が付帯しており、初代藩主、前田利家(1538-99)か三代藩主の利常(1593-1658)の時代に本阿弥光徳あるいは光甫に依頼して製作されたと伝えられている。江戸、千住の小塚原で行われた試し切りにおいて、幕府の御用「山野浅右衛門吉睦が大典太で試し切りを行った際に二躰の胴体を切断し、三躯目の背骨で止まったという伝承が残る。現在は前田家に伝わる文化財を保存管理する『財団法人前田育徳会』が所蔵している。
 徳川家康の愛刀として世に名高い久能山東照宮所蔵の太刀(重要文化財)、『典太光世 切付銘 ソハヤノツルキ ウツスナリ』も古来より鎌倉時代中期頃の筑後国三池光世の作と伝えられ、家康の臨終にあたり、尚不安をとどめる西国に切先をむけておくように久能山に納めよとの遺言をのこし、現在まで御神体同様に扱われている。
このように光世には武具や美術品としてだけではなく霊的な力があると伝承されてきた。其の他に、熊本県本妙寺所蔵、細川幽斉寄進の国宝指定、短刀 銘 光世などがあるが違例は少ない。
 『光世』の銘は何代かにわたり世襲されており、現存する在銘の作品は室町時代の作と鑑せられるもので、本作のように伝統の『三池樋』を茎に掻き流しているものがある。
この作品は室町時代、応永から文明頃の作品と思われる寸延び冠落としの造り込みをしている。腰部分には腰樋を茎まで掻き流して彫り、茎には添樋を掻いた独特の樋がある。宝剣として伝承されたのであろう、付帯の朱塗刻海老鞘唐草文金具脇指拵は赤銅・四分一・銀地の総金具雲文唐草で統一された高尚かつ品位のあるもの。時代を重ねて透明感の生じた朱色塗海老鞘との調和が美しく、金泥塗鮫皮に施された金茶色糸は製作された時代のままで風化しつつある質感は古雅な美観と調和して美しい。
朱塗刻海老鞘唐草文金具脇指拵(拵全体写真刀装具拡大写真
口・縁頭・筒金:唐草文図 赤銅磨地 毛彫 片切彫 金小縁
栗形・裏瓦・返角:唐草文図 四分一地 片切彫
鐺:雲唐草図 銀磨地 鋤下彫 金色絵 石目地 片切毛彫
鐔:桜花図 木瓜形 鉄地 金布目象嵌 両櫃孔(赤銅責金)
小柄・笄欠
渡金はばき、白鞘付属
参考文献:本間薫山・石井昌國 『日本刀銘鑑』 雄山閣 昭和50年、 財団法人前田育徳会 『国宝 名物大典太 名物太郎作正宗 名物富田郷』 勉誠出版 2012