剣形:鎬造り、庵棟やや高く、身幅やや広めに、元先の幅差が頃合いについて中峰延びごころ。やや深めの中間反りがついた寛永頃の典型的な姿の良い打刀。(刀身拡大写真)・(刀身押形)
地鉄:よく詰んだ緻密な小板目肌を基調に地沸が微塵に厚くついて柾目鍛の地景が顕れた美しい地鉄をしている。
刃紋:沸主調の大湾れ。腰元に大きな湾刃をふたつ焼く。刃縁には沸厚く積もり、小乱れ・ほつれ・二重刃を交えて明るく冴える。
帽子:直調子に僅かに湾れ、先僅かに掃きかけて中丸となり横手筋まで返る。
茎:生ぶ、僅かに区送り。目釘穴二個。大筋違の鑢目。棟肉平に大筋違の鑢目。茎尻は刃上がり栗尻が張る。佩表の鎬筋上にやや小振りの鏨で『加州住藤原家忠』の長銘がある。
家忠は慶長頃、陀羅尼派家重の子で勝国の弟。家名は洲崎、俗名を吉兵衛といい金澤に住したという。銘鑑によると寛永八・二十・二十一年紀の作品を観る。過去帳によると明暦元年(1655)に鬼籍にはいるという。
実子の二代家忠は同じく吉兵衛を名乗り『賀州大聖寺藤原家忠』などと銘を切る。早世で寛文十年(1670)歿という。初・二代ともに手腕優秀で同国刀工中の名人と称賛されている。
陀羅尼派宗家の勝国は孫六兼元風の三本杉を得意としたのにたいし、家忠は元和以降の武人の好尚に乗じて、備前伝の華麗な逆丁子や相州伝箱乱の技巧を凝らした作風を慧眼する。また本作のように大和伝の柾目肌鍛えに沸本位の焼刃を主調とした古作手掻派の作風に私淑した柾目鍛えの傑作がある。
朱布着漆塗鞘革巻太刀拵(総長104cm): (拵全体写真・拵各部拡大写真)
- 総金具(兜金・縁金物・口金物・足金物・責金物・石突金物)鉄地金小縁 雲文象嵌 無銘
- 鐔 鉄地木瓜形 雲文図象嵌、無銘、江戸肥後、熊谷派(保存刀装具)
- 金襴着茶漆布菱巻柄
- 目貫 二疋獅子図 赤銅容彫色絵
- 燻革太刀下緒
金着太刀はばき(拵)・金着庄内はばき(白鞘)、白鞘付属
参考文献:
本間薫山・石井昌国『日本刀銘鑑』雄山閣 昭和50年
(財)日本美術刀剣保存協会、石川県支部『加州新刀大鑑』昭和48年