Tuba2835a

甲冑師鐔

鉈小透図

無銘

丸形 鉄鎚目地 打返耳 片櫃孔 山銅、赤銅象嵌

縦 84.0cm 横 83.0mm 重ね 4.8mm(耳) 3.3mm(切羽台)

上製落込箱

現存する小透を基調にした鉄地板鐔のなかで、外周部の耳と呼称される部分を一段と厚く張り出す『甲冑師鐔』の手法はそれまでの『刀匠鐔』鐔工の創案したものではなく、古くから普及していた和鏡の端部に範を採ったものである。厚く張った耳の構造は強度を増すだけでなく、優れた意匠の構造美がみられる。この『土手耳』や『打返耳』、『鋤残耳』などの造形はそれまでの『刀匠鐔』よりさらに高度な技巧が求められおり、その分類上『甲冑師鐔』と呼称されている。

『甲冑師鐔』が製作されたのは南北朝時代にはじまり、以降、室町時代、桃山時代を経て江戸時代初期に至るまでのかなりの長い年代に跨がっている。桃山時代以前の作を『古甲冑師鐔』、江戸時代の作を『甲冑師鐔』と呼び分けているものの、有識者の時代判断はもっぱら個人的な視覚や手触感覚に頼っていることが実情である。直径が9㌢から10㌢とさらに大きく薄手で鎚目が強く表出しており無櫃孔で簡素な小透を施したものを『古甲冑師鐔』とし、やや小振りなものや櫃孔があるものを桃山時代以降の『甲冑師鐔』と分類しているのが実情である。甲冑師鐔は無銘であること、および記録がないので制作年代を断定するのは困難であろう。

この甲冑師鐔は片櫃孔を設けて鉈小透の配置は手際よく、山銅・赤銅の象嵌を施す古雅ながらも洗練されたた桃山時代~江戸初期辺りの作風。鎚目地の地鉄に鋤残された耳には鍛接跡と鉄骨が表出している。地鉄の鍛えは頗るよろしく、耳には鉄骨が表出し、紫錆の鉄味は殊に優れ鉄色冴えて称賛されよう。漆黒鉄色の闇夜空間は古雅な美的空間を演出している。